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些細なことかもしれない。けれど、BD-BOX化までの経緯が「そうさせない」 〜発端〜
「true tears」(略称tt)は、富山県に本拠地を置くアニメーション制作会社P.A.ワークスが制作したTVシリーズのアニメーション。富山の風景を本作中に描き、その美しい街並みや情緒あふれる描写で「名作」との呼び声高い作品です。
その「true tears」ですが、今まではDVD版しかリリースされておらず、「あなたの力でBD化プロジェクト」においてファンらの強い要望から Blu-ray化が決定しました。他作品は、BD化に関してユーザーの要望が直接的に関与する余地は無く、製作サイドの判断に委ねられていましたので、本作品は異例のリリース決定という経緯があります。さらに、BD-BOX発売の条件が「事前入金による発注数の最低ラインをクリアする」というシステムであったことから、「true tears」BD-BOX を事前入金したユーザーは真のファンであるとともに、他作品とは単純比較できない思い入れがあった事と思われます。
ここで重要視しなければいけないのが、既にリリース済みのDVD版でなく「あえてBD-BOXを購入したい」という意思の表れには、DVDではなくBlu-rayでなくてはならない理由があるはずであり、その想像に難くない部分(DVDとBlu-rayの大きな違い)は「画質」であろうということです。ただ作品を観たいだけでしたらDVDで良いわけですし、現在もなおDVD版は購入可能な状態にあるため、「Blu-rayでなくてはいけない明確な理由」が他に見当たらないのです。
そして、この度の騒動は「画質」に大きな期待を寄せていたファンが大勢いたことによるもので、クロスコンバートにおけるフィールド処理スケーリングが招いた悲劇と言えるかもしれません。この現象を多くの人は「縞々」と言ったりしますが、これはインタレースのコーミングにおける「縞々」とは違い”些細なことかもしれないがHDならではの解像感を損ねる問題”として、近年賑わいを見せている”低画質化の元凶”でもあります(1080i がクロスコンバート問題の原因だと思われ誤解が一人歩きしていますが、クロスコンバートと 1080i であることは問題が少々異なります。収録が 1080p でなく 1080i であったことから、クロスコンバート問題のあるTVソースと同じなのでは? という疑念が騒動に発展した模様)。
テレビ放送においては「また縞々だ〜ガッカリ」で済まされますが、大枚をはたいて”Blu-rayに期待”した購入者にとっては「些細なこと」で済まされませんし、気持ちのうえでも「そうさせない」のではないでしょうか。
では、騒動の元凶である”クロスコンバートによる縞々”について少し触れてみたいと思います。
クロスコンバートの縞々はフィールド分離処理によるスケーリングが招く 〜メカニズム〜
おそらく、「クロスコンバート」という用語とその現象を私たちに知らしめたのは「がらくたハウスのがらくた置き場」の中の方だと思われ、クロスコンバート補正というAviUtl向けのプラグインを公開した事によるものでしょう。
今もそうですが、当時から「縞々」と呼ばれていた現象は、「インタレースの縞々(コーミング)」と誤解して話がかみ合わないこともあり、あまりメジャーな現象ではありません。それほど些細な事であるが故に、業界人でも気にする人が非常に少ないと云われる厄介なものです。
私自身、このクロスコンバートによる縞々(というかガタガタ)を強烈に意識し始めた作品は、2007年にCXで放送されていた「しおんの王」で、当時はこれがクロスコンバートによる縞々だとは理解できず「540ライン程度のSD映像だ」などと誤解していました。今でこそ、あれはフィールド処理のクロスコンバートが招いた画質だと理解できるものの、ぱっと見だけで解像感を損なう処理であったことは言うに及びません。
では、このクロスコンバートとはなにか。アップコンバート(通称アプコン)はSD解像度からHD解像度へ変換することから名付けられているのに対し、クロスコンバートは主にHDからHD(多くは縦720から縦1080)への変換、もしくは映像の入出力がインタレースでもプログレッシブでも相互変換できる処理として呼ばれています。
その処理の実態は、入力が 60i である場合、映像をフィールド単位で分離してから片フィールドの映像成分をスケーリングし、スケーリング後に分離したそれぞれの片フィールドをフレームに再構築するもので、「がらくたハウスのがらくた置き場」で事前に公開されていた「インタレース維持リサイズ」を必要とするアプコン方式と基本的には同じ処理です(ベース解像度などが異なる)。
手前味噌ではありますが、「インタレース維持の使い方」(第一章・フィールド単位で処理するアプコンを確認)における480i→1080iに関する記述を、720→1080に差し替えてお読みいただくと、問題となるクロスコンバートのフィールド処理型スケーリングの仕組みが把握できるはずです。日本のインタレースは2:1ですので、720ラインの半分(トップフィールドとボトムフィールドそれぞれ360ライン)ずつを1080の半分(540)にスケーリングし、片フィールドずつを交互にフレーム成分(2フィールドの1080i)として再構築します。
それらフィールド処理の特徴から、コンバート前の入力映像が 60i のインタレース方式である場合に最大の威力を発揮し、I/P変換をしなくて済むどころかインタレースの構造を崩すことも無いため、動き適応型I/P変換にありがちな誤爆が皆無かつフレームバッファリングによる遅延も発生しません。
しかし大きな欠点として、フィールド分離処理による縦解像度の見苦しさが発生し、これが「true tears」BD-BOXで問題となった縞々(ガタガタ)の正体です(もちろん、やろうと思えば24pなどのプログレッシブ映像に対してもフィールド処理で縞々にすることも可能ですが、意図的に実行しない限りそうならない筈です)。
実際に、公式サイトで公開されたBlu-ray BOX版のスクリーンショットからクロスコンバートによる解像度低下部分をチェックしてみましょう。サムネイル画像をクリックすると1920×1080(等倍)で見られますので、それぞれの画像をタブ切り替えしながら比べると分かりやすいと思います。
c2008 true tears製作委員会
非常にわかりやすい3ポイントにチェック項目を付けてみましたが、オリジナルではフィールド処理によるジャギーやボケが発生しています。一方、フィールド処理の逆スケーリングをかけてクロスコンバート補正をした画像は、ジャギーやボケがかなり解消され、本来の画質に近いであろう解像感を取り戻しています。「true tears」BD-BOXの画質(縞々)を嘆いている皆さんは、この現象(クロスコンバート前の縦720相当にも満たない解像感)に不満があるため、この度のような騒動が起きました。
さらに、これらクロスコンバート問題がマイナーすぎるため、製作サイドが原因を完全に把握できていない(もしくは判明したがハッキリ言うに言えない)ことも手伝って、このような事態に陥っているのではないでしょうか。
追記:インプレスさんの「AV Watch」に、以下のようなバンダイビジュアルさんのコメントが掲載されています(一部引用)。
バンダイビジュアルによれば「原因は正直特定できない。2007年の制作当時に戻って、また一から作品制作の行程を辿っていけば、特定する事はできるかもしれないが、現在では原因の特定は不可能である」という。
やはり製作サイドは、クロスコンバートにおけるフィールド処理が原因であることを掴みきれていない(もしくは、分かっているが言うに言えない)ようで、アニメ公式ページのコメントが煮え切らない内容になっている点を裏付けるかたちとなっています(仕方ないとは思う)。
1280×720の時点で3-2プルダウン(60i)出力をしてはいけなかった
クロスコンバート問題が”どの時点で”発生したかは、バンダイビジュアルさんの公式コメントやABIさんのブログでも述べられている内容から、ほぼ想像がつきます。
以下、一部引用。
マスターデータは、当時のテレビ放送用に HD 1280x720ピクセル 30フレーム・インタレース表示のサイズにて撮影され、HDCAMでオリジナルマスター作成
コメントの共通点として「1280x720の30fps・インタレース(つまり60i:60フィールド/秒)で撮影」とあるため、After Effects かそれ相応のソフトを使い、コンポジット作業で(もしくは出力時か直後に)3-2プルダウンを掛けてしまったと解釈できます。つまり、フィールド処理によるクロスコンバートで 1080i 化するのがベターだった……と。たしかに、3-2プルダウンによるインタレース化をしてしまった明らかな痕跡として、TV放送版ではOPの小窓(ピクチャinピクチャ)映像がインタレースのコーミングで縞々でした(出力素材をそのまま流用・合成したと思われる)。
テレビ放送用に……といっても、1280x720の時点で3-2プルダウンをかけず、24pのまま1080にしてから3-2プルダウン(1080i)、SD用なら480(486)にしてから3-2プルダウン(480i)をすれば今回のクロスコンバート問題はまず発生しなかったわけで、非常に惜しまれる結果です。これらの出力作業は、制作元が行っていると思われますので、今後の作品のためにも行程改善が望まれる次第です。
追記:現時点においてTV放送されているアニメ作品で同様の問題が発生しているタイトルとして、「聖痕のクェイサー」等があります(BD版が別マスターで改善されているか否かは発売前のため未確認)。
今回は「true tears」のBD-BOXにおけるクロスコンバート問題を採りあげましたが、画質に対していろいろと書かせていただいたものの、作品そのものは非常に素晴らしいものであると私は思っています。自身として「true tears」BD-BOXの予約購入までは至りませんでしたが、だからこそ、購入ユーザーでもない製作サイドの人間でもない中立の立場として問題点を執筆させていただきました。
くれぐれも、問題は問題、作品の評価は評価として切り離しながら判断していただき、作品評価そのものを曲げること無きようお願いします。こういった問題があれど、現時点でDVD版よりも解像感のある「true tears」は、このBD-BOXでしか観られないのですから。
この文章に対し、明らかに間違っているといったご指摘がありましたら、Twitter に呟きをいただけますと幸いです。
■謝辞■
これらクロスコンバート問題を知るきっかけをくださった「がらくたハウスのがらくた置き場」さん(まじぽか太郎さん)に、この場をお借りし、あらためて感謝の意をお伝え申し上げます。
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